鳴鳥のさえずり学習

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我々人間は言語の発音や歌を他の人からの模倣によって学ぶ。このような、動物が他個体の音声を模倣しそれに類似した音声を生成することを「発声学習」と呼ぶ。人間以外で発声学習をする動物は非常に少ないが、鳴鳥(Songbird)と呼ばれるスズメ目の小鳥は「さえずり(歌)学習」と呼ばれる発声学習をすることが知られており、その神経メカニズムの研 究が世界中で精力的に行われている。

目次 1. 鳴鳥のさえずり 2. さえずり学習の過程 2.1 感覚学習期 2.2 感覚運動学習期 3. さえずり学習に関わる神経経路 4. 運動学習の視点から見たさえずり学習の研究

鳴鳥のさえずり

鳴鳥の発声は大きく分けて「さえずり」と「地鳴き」に分けられる。さえずりは一般に地鳴きより長く複雑であり、発声学習によって獲得される。多くの種類で雄だけがさえずりを歌い、雌への求愛や縄張り防衛などの機能を持つ。さえずりの音響学的構造は種によって大きく異なるが、比較的短いフレーズを繰り返して歌うキンカチョウ(Zebra finch)や、より長く複雑なさえずりを歌うジュウシマツ(Bengalese finch)が、さえずり学習の神経機構の研究でよく用いられている。

さえずり学習の過程

多くの鳴鳥は幼鳥期に成鳥のさえずりを模倣することによりさえずりを獲得する。このさえずり学習は主に以下の二つの過程からなることが知られている。

感覚学習期

さえずり学習の第一段階で、幼鳥が手本のさえずり(通常は親鳥のさえずり)を聞いてその音声パターンを記憶する期間。キンカチョウでは、感覚学習期は孵化後の早い時期に始まり約60日齢まで続く。

感覚運動学習期

さえずり学習の第二段階で、鳥が未熟なさえずりから手本のさえずりと類似したさえずりを作り上げる期間。この過程では、鳥は自身が発した未熟なさえずりの構造を手本のさえずりの記憶と比較し、その違いを小さくすることにより自身のさえずりを手本のさえずりに近づける。キンカチョウでは感覚運動学習期は30日齢頃から成鳥になる90日齢頃まで続き、感覚学習期とかなり重なっているが、両者が完全に分かれている種類もある。

さえずり学習に関わる神経経路

さえずり学習に関わる神経経路はキンカチョウで良く研究されており、その主要部分は一般に歌回路(Song system)と呼ばれる。歌回路は、さえずりに関わる筋肉の活動を作り出す直接制御系(Vocal Motor Pathway)と、直接制御系を修飾しさえずりを変化させる働きのある迂回投射系(Anterior Forebrain Pathway)から構成される。一方、歌回路の上流には高次聴覚野に相当する領域があり、手本のさえずりの情報がコードされていると考えられている。また、歌回路内にも手本のさえずり音声に特異的に応答する細胞が多く見られるが、手本のさえずりの記憶との関連は良くわかっていない。

運動学習の視点から見たさえずり学習の研究

鳴鳥が複雑なさえずり歌うには、発声に関わる多数の筋肉をミリ秒単位で素早く協調して動かすことが必要であるため、さえずり学習は複雑な運動学習の一形態とみなされる。また、上述の迂回投射系と呼ばれる神経経路は、哺乳類などでも運動学習に関わる大脳皮質ー大脳基底核経路と相同であることから、さえずり学習は複雑な運動学習の神経メカニズムを研究する上で良いモデルシステムになると考えられている。最近の研究から、鳴鳥は迂回投射系を用いてさえずりの構造に微小なばらつき与え、そのばらついたさえずりの中で最適のもの(手本のさえずりに最も近いもの)を維持することによりさえずりの構造を発達させるという、いわゆる試行錯誤学習(強化学習)を行っていることが強く示唆されている(強化学習モデル)。

参考文献 1. 小鳥はなぜ歌うのか 、小西正一、岩波新書 2. さえずり言語起源論――新版 小鳥の歌からヒトの言葉へ、岡ノ谷一夫、岩波科学ライブラリー 3. 小鳥のさえずり学習の神経機構:大脳基底核経路と強化学習モデル、小島哲、比較生理生化学 Vol.29 (2012) No.2 p.58-69

小島哲 Korea Brain Research Institute (KBRI)